目 次(8)

最新記事を見る

ホームにもどる

Philip の 続・ちょっといい話

アメージング・グレース

2007年2月に公開された "Amazing Grace" という映画を観ましたか?「DVD を持ってますよ。」という人も多くいると思います。これは、英国を奴隷売買禁止へと導いた若き政治家ウィリアム・ウィルバーフォースの生涯を描いたものです。彼の努力で奴隷貿易廃止法が成立したのが1807年でしたので、それからちょうど200年たった2007年に、この映画が作られたのでした。

アメリカで奴隷を解放したリンカーンの偉業は歴史に残るものですが、ヨーロッパでは、その半世紀前から奴隷制度の廃止が叫ばれていました。革命後のフランスがいち早く奴隷制度を撤廃し、続いて英国が奴隷貿易を禁止するようになりました。アフリカからさらわれてきた人々は、舟底に作られた縦幅がわずか2フィート7インチの「棚」の中に押し込められ、北米や南米に売られていました。船の中で死んでいった人々、絶望のあまり自殺した人々は数多く、彼らは海に捨てられ、文字どおり海の藻屑と消えていきました。生き延びて上陸した奴隷たちも、異国の地での苛酷な労働によって痛めつけられ、苦しめられてきました。アメリカでは1863年にリンカーンが奴隷解放宣言をするまで奴隷制度は続き、アフリカ系の人々が公民権を得たのは、それから 100年後の1965年でした。アメリカで奴隷制度が廃止されてまだ145年、その子孫に公民権が認められてからまだ43年しか経っていないのです。五十代、六十代の人々がこどものころには、アフリカ系アメリカ人はまだ一人前のアメリカ人として扱われていなかったのです。

古代には、戦争に負けた国の人たちはみな奴隷になりました。戦争に勝った国は、敵国の人々を奴隷という身分に固定しておくことによって、その国を支配し続けようとしました。ですから、奴隷の身分の人々はとても多く、ローマ帝国では総人口の半分ぐらいはいたと思われます。とくにローマやイタリヤでは、 90パーセント近くが奴隷で、自由人はほんの一握りしかいませんでした。身分は奴隷でも、身分の高い人の家庭教師になったり、学者になった人もありましたし、奴隷であっても賃金はもらえましたので、それを貯めて自由を獲得した人もいました。良い主人に恵まれた奴隷は、30歳くらいになると、奴隷から解放されることもありました。古代の奴隷制度は、近代の奴隷制度とはずいぶん違っていましたが、奴隷であることは、それだけで、人間の尊厳を傷つけるものです。ですから、聖書では「もし自由の身になれるなら、むしろ自由になりなさい。」(コリント第一7:21)と教え、実際、人々が奴隷から解放されるための「贖(あがな)い」のお金が教会で積み立てられていたという記録があります。

奴隷制度などというのは遠い昔のことのように思われがちですが、実はそうではなく、現代でも、借金や貧困のために身を売る人は多く、そうした人は世界で2700万人いると言われています。ドラッグの奴隷、ギャンブルの奴隷、アルコールの奴隷、そして、金銭の奴隷など、形は変わっても、何かの奴隷になっている人はなんと多いことでしょう。イエス・キリストは「まことに、まことに、あなたがたに告げます。罪を行なっている者はみな、罪の奴隷です。」(ヨハネ8:34)と言われました。たいへん厳しいことばです。しかし、イエス・キリストは、ただ私たちの罪を責めるためだけにそう言われたのではなく、私たちを「罪の奴隷」から解放するために、十字架で死なれたのです。イエス・キリストは、ご自分のいのちを奴隷を買い戻す「贖い」の代価として差し出してくださったのです。聖書は「キリストは、すべての人の贖いの代価として、ご自身をお与えになりました。」(テモテ第一2:6)と言っています。イエス・キリストは私たちを「罪の奴隷」から「神のこども」にしようとして、そう言われたのです。そして、そこに「恵みのメッセージ」があるのです。

奴隷貿易廃止のために闘ったウィルバーフォースを導いたのは、英国教会の司祭、ジョン・ニュートンでした。ニュートンは、若いころ、あまりにだらしない生活をしていたので、奴隷船の船主であった父親によって、アフリカに置き去りにされ、奴隷以下のみじめな生活をしました。やがて、まわりのとりなしによって祖国に帰ることができるようになったのですが、帰りの船が嵐に遭い、沈没寸前にまでなりました。ニュートンは、船底にまで入ってくる水を汲み出しながら、それまでの自分の罪を悔い改め、神に助けを求めました。命を救われたニュートンは、それから身を入れて働くようになりましたが、自分がしている奴隷船の船長という仕事に疑問を感じ、それを捨てて、聖職者になったのです。ニュートンは、自分のそうした過去にもかかわらず、自分を救い、神に仕える身にしてくださった神の恵みに感動して、次の歌を作りました。

 Amazing Grace! How sweet the sound, 驚くべき恵み、なんと甘い調べ
 That saved a wretch like me!     私のようなとんでもない人間を救ってくれた
 I once was lost, but now am found,  私はかつて失われていたが、今は見出された
 Was blind, but now I see.      盲目だったが、今は見える
      

この歌は、アメリカに昔から伝わるメロディに乗って、世界中で歌われるようになりました。

ウィルバーフォースがともに働いた人々の多くは、神とのまじわりを第一にするクエーカーのクリスチャンたちでした。ウィルバーフォースが、奴隷貿易によって富を得ていた人々の反対を押し切って、奴隷貿易を廃止へと導くことができたのは、彼の雄弁や政治手腕によってではなく、その信仰によってでした。たましいが罪の奴隷から解放してくださった、神の恵みを知っていたからこそ、彼は、数多くの困難を乗り越えて、奴隷貿易廃止を叫び続けることができたのです。私たちも、「恵みのメッセージ」を聞き、キリストの恵みに「驚き」「感動する」とき、そこから大きな喜びと力を得ることができるのです。

「キリスト・イエスにある恵みによって強くなりなさい。」(テモテ第二2:1)

前の記事 ホーム 次の記事

[編集] [追加] [削除] [復元]