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Philip's Bookcase

For All the Saints

この本の表紙には、聖餐のパンと盃、そして『神学大全』を前にし、聖書を両手で抱えているトマス・アクイナスが左に、右手に『95箇条の提題』、左手に聖書を持っているマルティン・ルターが右に、そしてその二人の上に栄光の主イエス・キリストが、十字架の釘跡のある両手を広げている姿が描かれています。とても珍しい絵で、私は、この本の内容ばかりでなく、この表紙に興味をもってこれを買いました。

この本の副題は Evangelical Theology and Christian Spirituality となっており、福音主義陣営でのクリスチャンの霊性にかんするシンポジウムをまとめたものです。Timothy George, Alister McGrath, James M. Houston, Dallas Willard, Catherine Wright, Stephen R. Todd, Ralph C. Wood, Gerald Gray, Mark R. Talbot, Marva J. Dawn, Robbie Castleman, Robert Smith Jr., Wallace A. C. Williams, Calvin Miller といった、この分野でのそうそうたる学者たちが寄稿しています。

霊性の基礎、霊性の源泉、霊性の批評、霊性の実践、霊性の訓練という主題を、これらの学者たちがカバーしていますが、各論説はかならずしも、主題にそったものではなく、全体の統一はとれていません。それはシンポジウムのまとめという、この本の性格から言ってやむを得ないことです。むしろ、各筆者の個性が出ていておもしろく、教科書的でないところが、かえって良いかもしれません。どの著者も、そして、この本全体が、霊性を狭い範囲に閉じ込めるのでなく、人間の全生涯にかかわるもの、日常生活や社会正義を含め、人間のあらゆる営みにかかわるものとしてとらえているのには好感を持ちました。

この本に限らず、霊性に関する本を読むとき、感動を覚えるのは、どの学者も、自らが真の霊性を求める探求者であり、霊的な旅人であることを、謙虚に告白していることです。福音派の学者の間にも霊性にかんする強調点の違いはありますが、この分野では、他の神学の主題のように喧々諤々の議論はありません。互いに他に聞き、相手に学ぼうとしています。私がこの分野の研究に興味があり、それを好んでいるのは、こうした平和的な雰囲気が好きだからです。

霊性に関する議論では、トマス・アクイナスにしたがうローマ・カソリックもマルティン・ルターにしたがうプロテスタントも大差はありません。むしろ、プロテスタントの霊性に関する理解と実践は、オーソドックスやカソリックに及ばす、オーソドックスやカソリックから学ぶもの大いにあると思います。他の分野では具体的な一致を示すことはできなくても、霊性の探求において、すべてのクリスチャンは一致を見ることができ、それを世に示すことができると思います。この本の表紙に描かれたトマス・アクイナスとマルティン・ルターは互いに別の方向を向き合っていますが、天におられる主をともに仰ぐことにおいて、同じ方向に向かい、互いに向かい合えるのではないかと思っています。

編者George, Timothy and McGrath, Alister
書名For All the Saints
出版社Westminster John Knox Press
ISBN0-664-22665-5

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