Philip's Bookcase |
この本は、私が参加している霊性センターの2008年度リトリートのテキストとして選ばれたもので、150ページの小さな本です。この程度の分量なら、楽々読めると思っていましたら、そういうわけには行かず、リトリートがはじまっても読み終えることができず、リトリート期間中、やっと読み終えました。リトリートでも、この本を全部扱うことができず、その後の月例会で継続して学び続けることになりました。それは、小さな本でありながら、それだけ豊かな内容を持っているということを意味しています。
この本の主題は、書名のように、人が神とまじわる場である「沈黙」にどのようにして入ることができるかということです。著者が言う「沈黙」とは、単にテレビやラジオのスイッチを切って静かな環境を作るとか、何もしゃべらないでいることといったものではありません。たとえ、どんな物音が聞こえなくても、何もしゃべらなくても、人の心にはさまざな「声」があって、ものごとに対して、また、自分の感情に対して様々な「注釈」をつけ、それが、神との交わりの場である「沈黙」への道筋を妨げているのです。これを克服するために「祈りのことば」をどう使ったら良いか、その「祈りのことば」がどのように「沈黙」に置き換わり、神とのまじわりに導かれていくかを、この本は教えています。
著者は、アウグスティヌス会の司祭で、フィラデルフィアにある同会の大学の准教授で、教父学を専攻した人です。東方の教父たちの霊性に詳しく、沈黙に入るための「祈りのことば」として、主に東方教会で祈られてきた Jesus Prayer を勧めています。私はこの本によってあらためて、黙想における Jesus Prayer の位置を確認することができました。
著者が何歳くらいの人なのかわかりませんが、ふだん若い学生たちに触れている人のようで、深い内容をわかりやすいことばで説明しています。本来人間のことばで言い表わすことができない、神とのまじわりという主題を書き表そうとするために、様々な比喩、寓喩、ストーリーが使われています。エピローグにあるストーリーもその一つですが、この本を最初から読んで来ると、そのストーリーの意味が良く分かります。「あなたは何者か。」この問いの答が「沈黙」によって得ることができることも、良く分かることでしょう。
著者 | Laird, Martin, |
書名 | Into the Silent Land |
出版社・出版年 | Oxford University Press, 2006 |
ISBN | 978-0-19-530-760-3 |