8:31 では、これらのことからどう言えるでしょう。神が私たちの味方であるなら、だれが私たちに敵対できるでしょう。
8:32 私たちすべてのために、ご自分の御子をさえ惜しまずに死に渡された方が、どうして、御子といっしょにすべてのものを、私たちに恵んでくださらないことがありましょう。
8:33 神に選ばれた人々を訴えるのはだれですか。神が義と認めてくださるのです。
8:34 罪に定めようとするのはだれですか。死んでくださった方、いや、よみがえられた方であるキリスト・イエスが、神の右の座に着き、私たちのためにとりなしていてくださるのです。
8:35 私たちをキリストの愛から引き離すのはだれですか。患難ですか、苦しみですか、迫害ですか、飢えですか、裸ですか、危険ですか、剣ですか。
8:36 「あなたのために、私たちは一日中、死に定められている。私たちは、ほふられる羊とみなされた。」と書いてあるとおりです。
8:37 しかし、私たちは、私たちを愛してくださった方によって、これらすべてのことの中にあっても、圧倒的な勝利者となるのです。
8:38 私はこう確信しています。死も、いのちも、御使いも、権威ある者も、今あるものも、後に来るものも、力ある者も、
8:39 高さも、深さも、そのほかのどんな被造物も、私たちの主キリスト・イエスにある神の愛から、私たちを引き離すことはできません。
一、信仰の戦い
人類の歴史は戦争の歴史でした。国と国、民族と民族、階層と階層とが絶えず戦い、争ってきました。私たちの社会には、武器を取って戦う戦争ばかりでなく、さまざまな戦争があります。身近なところでは、教育の世界での「受験戦争」や、企業の世界での「販売合戦」などがあります。政治の世界でも、「2008年の大統領の選挙戦はもう始まっている。」などと言います。日本では、有名な幼稚園の受験のために、赤ちゃんまでも塾に通っていると聞きました。そんなふうに小さいころから何ごとにおいても競争させると、こどもたちは他のこどもがみな競争相手だと思い込み、友だちを作ることができなくなってしまうのではないかと思います。自分をいつでも人との比較だけで見て、自分の本当の姿を知ることができなくなります。少し人よりすぐれていると思うと優越感にとらわれ、人を見下すようになり、人より劣っていると思うと劣等感に陥って、人を恨むようになります。受験戦争が競争社会を生み出し、それが実際の戦争になっていくのかもしれません。戦争の多くはしなくて良いもの、してはいけなかったものでした。多くの人の命を奪う戦争の悲惨さを見るたびに、戦争は避けられるだけ避けるべきものだということを感じます。しかし、だからと言って、どんな戦いも要らないというのではありません。差別との戦い、貧困との戦い、病気との戦いは、今も必要でしょう。聖書には悪との戦い、罪との戦いという霊的な戦いが教えられています。
イスラエルは、エジプトから救われて後、荒野を40年放浪しましたが、その間無駄に日々を過ごしたのでなく、やがて約束の地に入る時、そこを戦いとることができるために主の軍勢としての訓練を受けたのです。旧約では、イスラエルが主の「軍団」と呼ばれています。新約では教会もまたキリストの「軍団」とみなされています。イスラエルの人々はカナンの人々と戦い、土地を獲得しましたが、クリスチャンは信仰の戦いを戦い、永遠のいのちを獲得するのです。使徒パウロは「信仰の戦いを勇敢に戦い、永遠のいのちを獲得しなさい。」（テモテへの手紙第一6:12）と教えています。宗教改革者たちは地上の教会を「戦う教会」、天にある教会を「安息の教会」と呼びました。イスラエルの人々がエジプトから救い出された後すぐに約束の地を手にしたのではなく、それを戦い取ったように、クリスチャンもまた、救われてすぐに天の安息に入るのではなく、地上での戦いをへて、天の安息に入るのです。すべてのクリスチャンは、信仰の戦いに召されています。霊的な戦いに、兵士として招集されているのです。
「勝利を得る者に、いのちの木の実を食べさせよう。」「勝利を得る者は、第二の死によってそこなわれることはない。」「勝利を得る者に、隠れたマナと白い石を与える。」「勝利を得る者には、諸国の民を支配する権威を与えよう。」「勝利を得る者は、白い衣を着せられる。」「勝利を得る者を、わたしの神の聖所の柱としよう。」「勝利を得る者を、わたしとともに私の座につかせよう。」という約束がヨハネの黙示録にあります。主イエスは、「勝利を得る者」という言葉を使うことによって、私たちの信仰生活は、ただハッピーなだけの生活、のんびりとした安楽な生活ではなく、戦いの生活であることを、私たちに教えられました。聖書は、私たちに目を覚まして信仰の戦いを戦うように、また、霊的な戦いに勝利するようにと、はっきりと語っているのです。
二、信仰の敵
信仰生活は戦いの生活ですが、信仰のいちばんの敵は何でしょうか。それはサタンです。「サタン」というのは「敵」という意味のことばで、それがそのまま彼の名前となりました。「サタン」というと、物語に出てくるようなもので、実在していないと思っている人がいますが、聖書にはサタンが、創世記から黙示録まで、いたるところに登場します。イエスご自身がサタンと戦われました。サタンの存在を否定するなら、聖書がサタンについて書いてあるところは本当ではないということになり、それは、聖書のすべてが真実な神のことばであるという信仰と矛盾します。また、イエスのおことばとみわざを否定することにもなりかねません。C.S.ルイスが言うように、自分の存在を人々に信じさせないというところに、サタンの巧妙さがあるのかもしれません。
サタンは「悪魔」とも呼ばれます。「悪魔」という名前には「訴える者」「そしる者」という意味があります。ローマ8:33〜34に「神に選ばれた人々を訴えるのはだれですか。神が義と認めてくださるのです。罪に定めようとするのはだれですか。死んでくださった方、いや、よみがえられた方であるキリスト・イエスが、神の右の座に着き、私たちのためにとりなしていてくださるのです。」とあるように、悪魔は「このクリスチャンは、こんな悪いことをし、あんな罪も犯しているではありませんか。」と言って、神に向かってクリスチャンを訴え、クリスチャンに対しては「おまえはまだ罪深い。罪が赦されたと言って喜んでいるが、そんなに簡単に罪が赦されるわけがない。」と言って、クリスチャンを不安に陥れ、神から引きはなそうとするのです。クリスチャンの信仰の中心は「罪の赦し」です。クリスチャンが宣べ伝えているのはまさに「罪の赦しの福音」です。これを否定してしまえば、クリスチャンの信仰は骨抜きになってしまいます。サタンは全知全能ではありませんが、霊的なことにおいてはずば抜けた知識を持っていて、どこを突けばクリスチャンをダメにしてしまえるかを良く知っているのです。それでクリスチャンにとっていちばん大切なものを攻撃してくるのです。
このサタンに立ち向かい、彼に打ち勝つには、キリストの十字架と復活と昇天を信じる信仰が必要です。ローマ8:34に「罪に定めようとするのはだれですか。死んでくださった方、いや、よみがえられた方であるキリスト・イエスが、神の右の座に着き、私たちのためにとりなしていてくださるのです。」とあります。キリストが死んでくださったのは何のためでしたか。十字架の上で、私たちの罪とその刑罰を引き受けてくださるためでした。キリストが死を打ち破って復活されたのは何のためでしたか。それは、十字架の救いが確かなものであることを保証するためでした。主は40日してから天に帰りました。何のためですか。キリストを信じる者のためにとりなしてくださるためです。私たちは、みずからがキリストに祈り、キリストのお名前によって神に祈るだけでなく、キリストによって祈られて、罪のゆるしをいただくのです。キリストの十字架があるのに、罪が赦されないことがあるでしょうか。キリストが復活されたのに、私たちが罪から解放されないことがあるでしょうか。キリストがとりなしていてくださるのに、私たちが罪の力に敗北したままで終わることがあるでしょうか。
先週の礼拝で、イエスがペテロに「ペテロ。あなたに言いますが、きょう鶏が鳴くまでに、あなたは三度、わたしを知らないと言います。」（ルカ22:34）と言われたことをお話ししました。イエスを否定したペテロを真っ先に責めたのは、おそらくサタンだったでしょう。イエスを亡き者にして勝ち誇っていたサタンは、「ペテロよ、おまえはイエスの一番弟子だと言っているが、このざまはどうしたのだ。もう、おまえは赦されないのだ。おまえは、おまえが従ってきたイエスといっしょに、死んでしまうが良い。」と言ってペテロを苦しめたことでしょう。しかし、ペテロはサタンの餌食になりませんでした。「シモン、シモン。見なさい。サタンが、あなたがたを麦のようにふるいにかけることを願って聞き届けられました。しかし、わたしは、あなたの信仰がなくならないように、あなたのために祈りました。だからあなたは、立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。」（ルカ22:31-32）と、イエスが言われたように、ペテロは十字架を見上げ、復活を信じ、自分のために祈ってくださるイエスに頼って、そこから立ち直りました。
私たちも、ペテロと同じようにキリストが私の罪のために死んでくださったこと、私を救うために死人の中から復活されたこと、そして、今、天にいて、私のためにとりなしていてくださることを信じることによって、サタンに勝つことができます。キリストの死と復活、そして昇天は「信仰の奥義」と呼ばれます。あなたはキリストの十字架、復活、そして昇天の意味を知り、信じていますか。これは、クリスチャンなら誰もがしっかりと信じて、理解していなければならない基本的なものです。また、それを知り、信じるだけでなく、あなたの心はいつもキリストの十字架と、復活と、そして昇天と結び付いているでしょうか。信仰の戦いに勝利するには、私たちの救い主キリストに結びついている以外に道はないのです。
イースターはキリストの復活の日ですが、同時に私たちの信仰の復活の日でもあります。もし、誰かの信仰がすこしも成長せず死んだようになっていたとしても、もういちどキリストの十字架と復活を心に刻むなら、その信仰はよみがえるのです。ペテロの信仰を復活させてくださったキリストはあなたにも同じようにしてくださいます。この礼拝で、私たちの信仰の復活をも祈り求めましょう。
三、信仰の勝利
使徒パウロがローマ人への手紙を書いた時、クリスチャンはまだそんなに多くはありませんでした。人々はクリスチャンをユダヤ教の一派としてしか扱っていませんでした。教会も、まだ土地や建物が無く、個人の家で集まりを持っていて、おおやけの目に触れないこともありました。しかし、クリスチャンの数が増えるにつれて、クリスチャンは迫害を受けるようになりました。ローマ8:35でパウロは「私たちをキリストの愛から引き離すのはだれですか。患難ですか、苦しみですか、迫害ですか、飢えですか、裸ですか、危険ですか、剣ですか。」と言っていますが、「患難」、「苦しみ」、「迫害」、「飢え」、「裸」、「危険」、「剣」は、パウロがその伝道生涯で体験してきたことでした。やがて大規模な迫害が始まり、パウロだけでなく、多くのクリスチャンが危険にさらされ、命を奪われていきました。ローマの民衆はクリスチャンをコロシアムに連れ出し、飢えたライオンの餌食になるのを見て楽しんだのです。また皇帝ネロはクリスチャンに生きたままタールをかけ、火をつけて燃やし、コロシアムの照明にしたと言われています。私たちは、信仰の自由が保証されているアメリカにいると、そんな迫害が今もあることを忘れがちですが、世界にはまだまだ信仰の自由のない国々が多くあることを覚えて祈りたいと思います。また、信仰の自由のある国でも、多くの人がこの世と妥協して生ぬるくなり、そういう人が真実に信仰を求める人を妨げるということが起こっています。そうしたことは迫害よりも、もっと私たちの信仰を損なうのです。
けれども、パウロは叫んでいます。「私たちは、…これらすべてのことの中にあっても、圧倒的な勝利者となるのです。」「圧倒的な勝利者」というのは英語で ”more than conquerors" と訳されています。私たちがサンディエゴにおりました時、奉仕していた教会の近くにアフリカン・アメリカンの教会があって、その教会の名前が ”More Than Conquerors Church" という名前でした。「すごくいい名前だね。」といつも家内と話していました。"conquerors" というのは「征服者たち」という意味ですね。古代にはバビロンのネブカドネザルやマケドニアのアレクサンダー大王といった征服者たちがいて、広大な帝国をつくりました。パウロの時代には、ローマの皇帝たちが世界の征服者たちでした。パウロは、ローマに征服されたユダヤ民族のひとりにすぎませんでした。クリスチャンは人の目からは羊のように弱々しく見えたでしょう。迫害の時代には、36節にあるように、「ほふられる羊」、殺されゆく羊のように思われました。しかし、キリストを信じる者は、”more than conquerors"「征服者以上の者」、どんな征服者にまさるもの、ローマ皇帝よりも強い者なのです。ローマ皇帝はクリスチャンの財産を奪い、その肉体を傷つけ、命を奪いました。しかし、クリスチャンから信仰を、キリストへの愛と忠誠を、そして永遠の命を奪い去ることはできませんでした。まことの信仰者はなにものによっても征服されることはないのです。
38-39節でパウロはこう続けます。「私はこう確信しています。死も、いのちも、御使いも、権威ある者も、今あるものも、後に来るものも、力ある者も、高さも、深さも、そのほかのどんな被造物も、私たちの主キリスト・イエスにある神の愛から、私たちを引き離すことはできません。」すべての人は死を迎えます。ローマ皇帝がいくら「自分は神だ。わたしを礼拝せよ。」と言っても、しょせんはやがて死ななければならない存在です。死は、人類の最後の敵ですが、死と戦って、誰も勝った人はいません。私たちの死亡率は100パーセントです。しかし、ただひとり、死に勝利されたイエス・キリストがおられます。イエスはご自分の死によって死を滅ぼし、墓をうちやぶって復活されました。キリストの復活を信じる者は、キリストの復活の命に生かされて、キリストとともに永遠の国で生きるのです。キリストを信じる者は死さえも征服する、"more than conquerors" 征服者以上の者なのです。
武力で国々を征服した者たちはやがて、武力で征服されていきました。どの征服者も、同じ時代の力ある者や次の時代に興る勢力におびえました。しかし、キリストを信じる者は「今あるものも、後に来るものも」恐れません。どんなに「力ある者」があったとしても、それは「被造物」に過ぎないからです。「高さも、深さも、そのほかのどんな被造物も、私たちの主キリスト・イエスにある神の愛から、私たちを引き離すことはできません。」と聖書は言っています。造られたものは、造り主を超えることはできません。神はすべてのものを造られた創造者です。この神が私たちを愛しておられるなら、神を愛している者を誰が征服できるでしょうか。神が、私たちの味方であるなら、誰が神を信頼する者を打ち負かすというのでしょうか。人生は戦いです。人生にはさまざまな悲しみがあり、苦しみがあり、理不尽なことがあります。キリストを信じる信仰を持っていれば、そうした苦しみに遭わなくてすむというのではありません。むしろ、キリストに従おうとすればするほど、キリストに従うための苦しみや困難が増し加わるでしょう。
しかし、私たちは恐れません。なぜなら、神が私たちの味方だからです。信仰の戦いで勝利を収める秘訣は、一番強いお方を味方につけることです。自分の弱さを認めて、こころから神に頼る者を神はお見捨てになりません。神は、そのような人々の味方になってくださるのです。神が味方になっておられる者に敵対する者は、神に敵対するのです。その人に勝ち目はありません。神によって、復活されたキリストによって、私たちは苦しみや困難の只中でも、圧倒的な勝利者になることができるのです。「神が私たちの味方であるなら、だれが私たちに敵対できるでしょう。」イースターの朝、この信仰によって勝利の歩みをはじめていきましょう。
（祈り）
神さま、あなたは「万軍の主」と呼ばれ、すべての力を持っておられます。あなたは、イエス・キリストを死者の中からよみがえらせることによって、その全能の力をあらわしてくださいました。人生の戦いに、信仰の戦いに苦しむ者たちに、あなたの全能を力を示してください。イエス・キリストの復活の力によって、私たちの信仰をよみがえらせてください。その力によって私たちを「征服者たち」以上のもの、圧倒的な勝利者としてください。キリストのお名前で祈ります。
4/8/2007