15:25 ところが、兄は畑にいたが、帰ってきて家に近づくと、音楽や踊りの音が聞えたので、
15:26 ひとりの僕を呼んで、「いったい、これは何事なのか」と尋ねた。
15:27 僕は答えた、「あなたのご兄弟がお帰りになりました。無事に迎えたというので、父上が肥えた子牛をほふらせなさったのです。」
15:28 兄はおこって家にはいろうとしなかったので、父が出てきてなだめると、
15:29 兄は父にむかって言った、「わたしは何か年もあなたに仕えて、一度でもあなたの言いつけにそむいたことはなかったのに、友だちと楽しむために子やぎ一匹も下さったことはありません。
15:30 それだのに、遊女どもと一緒になって、あなたの身代を食いつぶしたこのあなたの子が帰ってくると、そのために肥えた子牛をほふりなさいました。」
15:31 すると父は言った、「子よ、あなたはいつもわたしと一緒にいるし、またわたしのものは全部あなたのものだ。
15:32 しかし、このあなたの弟は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだから、喜び祝うのはあたりまえである。」
天の父のお心は聖書のいたるところに、はっきりと書かれていますが、一番親しみやすい形で描かれているのは、なんといっても、ルカ15章の「放蕩息子のたとえ」でしょう。このたとえは「放蕩息子のたとえ」と呼ばれていますが、その主人公は「放蕩息子」ではなく、その「父親」です。ルカ15章には、失われたものが三つ描かれています。最初は「羊」、次は「銀貨」、そして三つ目が「放蕩息子」です。そして、どのたとえにも、失われたものを見つけ出した人の喜びが語られています。「いなくなった羊」を捜し当てた羊飼いはイエス・キリスト、「なくなった銀貨」を見つけた婦人は聖霊を表わします。そして、「家を飛び出した息子」を再び迎えた父親は、父なる神を指しています。放蕩息子のたとえは、父なる神のお心を教えています。
一、放蕩息子を迎えた父
最初に、放蕩息子を迎えた父親の姿から、父なる神のお心を学びましょう。放蕩息子と呼ばれたのは、この父親の次男でした。当時、家を継ぐのは長男でした。それで、弟息子は考えました。「父親の財産はいずれは長男に譲りわたされ、自分の居場所はなくなってしまう。今のうちに、自分がもらうはずの財産をもらって、好きなことをしよう。」弟息子は、自分の考えを実行に移し、父親に「生前贈与」を願い出ました。それは、親子の縁を切ることを意味しましたが、彼は、親子の絆よりも財産を選び、家を飛び出しました。
ところが彼は、遠い国で、財産を使い果たし、無一文になってしまいました。ユダヤ人には触れることや食べることを禁じられていた豚を飼う者になりましたが、空腹のあまり豚の食べる餌さえ食べたいと思うほどに落ちぶれてしまいました。彼は、どん底に落ち込んで、やっと本心に立ち返り、こう言いました。「父のところには食物のあり余っている雇人が大ぜいいるのに、わたしはここで飢えて死のうとしている。立って、父のところへ帰って、こう言おう、父よ、わたしは天に対しても、あなたにむかっても、罪を犯しました。もう、あなたのむすこと呼ばれる資格はありません。どうぞ、雇人のひとり同様にしてください。」（ルカ15:17-19）彼は、生前贈与を受け取った時点で、もう父親の息子でなくなったことを知っていました。それでも、親からもらった財産で成功していれば、いや、大きなことができなかったとしても真面目に生きていれば親にも顔向けができたでしょう。しかし、気ままでふしだらな生活をし、財産を遊興に使い果たしてしまった彼には、もう、「むすこと呼ばれる資格」はありませんでした。彼はそのことを十分に承知した上で、自分の罪を詫びる決心をし、それを実行するために「立って、父のところに出かけた」（ルカ15:20）のです。
父親のもとに帰る放蕩息子は、誰が見てもあの息子だとは分からないほど、みすぼらしい姿をしていたことでしょう。ところが、息子が父親を見つけるよりも早く、父親が息子を見つけ、父親の方から息子に走り寄りました。聖書に「まだ遠く離れていたのに、父は彼をみとめ、哀れに思って走り寄り、その首をだいて接吻した」（ルカ15:20）とある通りです。父親のほうが先に息子を見つけたのは、決して偶然ではありません。父親は、毎日外に出ては、自分の家に通じる道を眺め、息子が帰ってくるのを待っていたのでしょう。当時、裕福な家のあるじは、裾の長い服を着ていました。そんな服を着てはとても走れません。ゆったりと歩き、人々に威厳を示したものです。ところが、この父親は、服の裾をからげて息子のほうに走ってきました。
ところで、当時の父親は、親に背いた息子が帰ってきたとき、決して息子を家に迎え入れませんでした。家の外で、息子を地面にひれ伏させ、「何をしに帰ってきた。言い分があるなら、聞いてやろう。話してみろ」と言ったものです。ところが、この父親は、息子が「父よ、わたしは天に対しても、あなたにむかっても、罪を犯しました。もうあなたのむすこと呼ばれる資格はありません」と言ってから、「どうぞ、雇い人のひとり同様にしてください」と言おうとしたとき、その言葉をさえぎって、しもべたちに命じました。「さあ、早く、最上の着物を出してきてこの子に着せ、指輪を手にはめ、はきものを足にはかせなさい。」（ルカ15:22）晴れ着や指輪、そしてはきものは、息子のしるしです。父親は彼を雇い人としてではなく、息子として迎え入れたのです。
この物語を読む人は誰でも、放蕩息子が自分で、父親が父なる神であることが分かります。人はみな神に愛され、神を愛する存在として造られました。ところが、人は神の愛を悟らず、神に背きました。神も神の愛もいらないとうそぶき、神よりも自分を愛し、自分の誉れを求め、自己中心な生活を押し通してきたのです。わたしたちは、この放蕩息子のように、落ちぶれた生活はしていないかもしれませんが、わたしたちの内面には、もはや、神の子どもと呼ばれるにふさわしいものは何ひとつなくなっていたのです。それでも、神は、人を愛し続けてくださいました。わたしたちが、神に対する罪を認め、悔い改め、赦しを求め、立ち上がって、神に向かって一歩を踏み出すのを待っておられるのです。一歩を踏み出しさえすれば、神のほうからわたしたちのほうに近づいてくださり、神の子どもとして父なる神のふところに迎えいれてくださるのです。
この神の愛のお心はここでは「たとえ」や「物語」の形で描かれていますが、それは、たんなる「たとえ」や「物語り」ではありません。神は、ご自分のかけがえのない「息子」、御子イエス・キリストを世に遣わし、イエス・キリストの十字架と復活によって、実際に、罪ある者たちを、そのどん底から引き上げ、その罪を赦し、受け入れてくださいました。イエス・キリストを信じて、まことの神に立ち帰った者たちは皆、父なる神のふところの中でこの限りなく大きく、深い愛を体験しているのです。
二、兄をなだめた父
次に、兄をなだめた父親の姿から父なる神のお心を学びましょう。放蕩息子のたとえで、兄のことは、忘れられやすいのですが、放蕩息子の兄は、このたとえの単なる付け足しではありません。放蕩息子のたとえが「ある人にふたりの息子があった」（ルカ15:11）という言葉で始まっているように、兄はこの物語の大切な構成要員です。
兄が仕事から帰ってくると、家から賑やかな声が聞こえてきました。何があったのかとしもべのひとりに聞いてみると、弟が帰ってきたのを祝っているのだというのです。兄は、それを聞いて怒り、家に入ろうとはしませんでした。父親がやってきて、兄をなだめようとするのですが、兄は、それに対してこう言いました。「わたしは何か年もあなたに仕えて、一度でもあなたの言いつけにそむいたことはなかったのに、友だちと楽しむために子やぎ一匹も下さったことはありません。それだのに、遊女どもと一緒になって、あなたの身代を食いつぶしたこのあなたの子が帰ってくると、そのために肥えた子牛をほふりなさいました。」（ルカ15:29-30）この、父親に対する抗議の言葉からわかるように、兄は、父親を「子やぎ一匹さえも惜しむケチで、厳しいだけの人」だと考えていました。兄は、父親のもとで真面目に働いてはいましたが、父親の愛を理解せず、父親を愛することもなく、父親の喜びをともに喜ぶことができなかったのです。
放蕩息子のたとえ話では、弟息子は「取税人や罪人たち」のことを指していますが、兄は「パリサイ人や律法学者」を指しています。パリサイ人や律法学者は、自分たちこそ神の国にふさわしい者たちであって、取税人や罪人たちが神の国に入れるわけがないと思っていました。しかし、最初から神の国にふさわしい人など、どこにいるのでしょうか。自分の罪を帳消しにできるほどの善い行いを積み重ね、神の国にストレートで入れるほどの完全な人格を、誰が身につけているというのでしょうか。そのような人は、この地上には誰ひとりいません。わたしたちはひとりのこらず、ただ神の恵み、哀れみによって、罪赦され、はじめて、神のおられるところに行くことができ、神と共にいることができるのです。神の国の門は自分の罪を知り、それを悔い改めた者だけに開かれているのです。神の国の喜びは悔い改めの喜びです。それは、悔い改めた者が味わうことができる無上の喜びであり、神が最も喜ばれる喜びです。罪人がひとりでも悔い改めるなら、天には、天を揺るがすほどの大きな喜びが沸き起こるのです（ルカ15:7）。
放蕩息子の兄が、「長年の間、私はおとうさんに仕え、戒めを破ったことは一度もありません」と言ったように、パリサイ人や律法学者たちは、自分を正しいとする人たちでした。兄が、自分の弟を「弟」とは呼ばず、「遊女どもと一緒になって、あなたの身代を食いつぶしたこのあなたの子」と呼んで、「あいつは、俺の兄弟なんかじゃない」と、冷たく突き放したように、彼らは、悔い改めて神に立ち返った人々を蔑みました。そして、兄が、外の暗闇に立ったままで、家に入ろうとしなかったように、神の国の喜びに入ろうとはしなかったのです。
最初、わたしは、「ルカ15章には失われたものが三つ描かれている」と言いましたが、じつは、四つかもしれません。兄は、弟のように父親から離れ、遠い国に行くことはなく、父親と一緒にいました。けれども、その心は、父親から遠く離れていました。兄もまた、弟と同じように父の愛を知らず、認めず、その愛から遠く離れた「失われた者」でした。現代、この兄のような人が大勢いるように思います。イエス・キリストにある信仰を否定するわけではないのに、決して信仰の喜びの中に入ろうとしない人たちです。しかし、神は、兄のような人たちをも見捨ててはおられません。この物語の父親は兄に語りかけました。「子よ、あなたはいつもわたしと一緒にいるし、またわたしのものは全部あなたのものだ。しかし、このあなたの弟は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだから、喜び祝うのはあたりまえである。」（ルカ15:31）弟息子のための祝宴を中座し、家の外にまで出てきて兄息子を説得しました。父親にとっては、兄息子も弟息子も、等しい愛の対象だったのです。それで、父親は、まるで、兄息子に嘆願するかのようにして、必死に語りかけたのです。
わたしはここを読むたびに、第二コリント5:19-20の言葉を思い起こします。新改訳でこう書かれています。「神は、キリストにあって、この世をご自分と和解させ、違反行為の責めを人々に負わせないで、和解のことばを私たちにゆだねられたのです。こういうわけで、私たちはキリストの使節なのです。ちょうど神が私たちを通して懇願しておられるようです。私たちは、キリストに代わって、あなたがたに願います。神の和解を受け入れなさい。」神は、わたしたちの罪を赦し、ご自分のもとに受け入れるため、イエス・キリストの十字架によって「和解」の道を備え、その和解を受け入れるようにと「懇願」・「嘆願」しておられるというのです。ルカ15章は、父親の兄息子への嘆願の言葉で締めくくられています。そこには、兄息子が父親の言葉にどう答えたかは書かれていません。この物語の続きは、わたしたちひとりびとりが書くのだと思います。あなたが書く物語の結末はどのようなものでしょうか。父なる神の「愛の訴え」に心を開き、それにお答えしましょう。さあ、いっしょに、天の喜びの中に入りましょう。
（祈り）
父なる神さま、罪の赦しの喜びの中に招いてくださる、あなたのお心を感謝いたします。あなたの父としての大きな愛のお心が、わたしたちの心となりますように。それによって信じる者たちがひとつに結ばれ、ひとりびとりの人生が導かれますように。主イエス・キリストのお名前で祈ります。
6/18/2017