1:67 さて父ザカリヤは、聖霊に満たされて、預言して言った。
1:68 「ほめたたえよ。イスラエルの神である主を。主はその民を顧みて、贖いをなし、
1:69 救いの角を、われらのために、しもべダビデの家に立てられた。
1:70 古くから、その聖なる預言者たちの口を通して、主が話してくださったとおりに。
1:71 この救いはわれらの敵からの、すべてわれらを憎む者の手からの救いである。
1:72 主はわれらの父祖たちにあわれみを施し、その聖なる契約を、
1:73 われらの父アブラハムに誓われた誓いを覚えて、
1:74 われらを敵の手から救い出し、
1:75 われらの生涯のすべての日に、きよく、正しく、恐れなく、主の御前に仕えることを許される。
1:76 幼子よ。あなたもまた、いと高き方の預言者と呼ばれよう。主の御前に先立って行き、その道を備え、
1:77 神の民に、罪の赦しによる救いの知識を与えるためである。
1:78 これはわれらの神の深いあわれみによる。そのあわれみにより、日の出がいと高き所からわれらを訪れ、
1:79 暗黒と死の陰にすわる者たちを照らし、われらの足を平和の道に導く。」
一、時を見分ける
きょうはアドベントの第二の日曜日です。「アドベント」はラテン語の「アドベントウス」から出た言葉で、ラテン語の「アドベントウス」はギリシャ語の「パルーシア」を訳したものです。「パルーシア」というギリシャ語は聖書では「キリストの来臨」を表わすところで使われていますので（テサロニケ第一5:23、テサロニケ第二2:8、ペテロ第二1:16、3:4、ヨハネ第一2:28 ）、「アドベント」には「来臨」という意味があります。
ルカの福音書は救い主がやがて来られるという予告から書き始められいます。最初にその予告を受けたのは祭司ザカリヤでした。神殿は人々がそこに来て祈る、祈りの家でした。しかし、一般の人は神殿の中に入って祈ることは許されず、神殿の庭で祈りました。人々が祈っている間、祭司は神殿の中に入り香を炊きました。香は祈りを表わします。人々の祈りを神のまえに携えていく、それが祭司の努めでした。
ザカリヤが神殿の中に入って務めをしているとき、天使ガブリエルが現われました。ザカリヤと妻エリサベツの間に男の子が生まれる。その子は救い主のために道を備える者になるとザカリヤに告げたのです。しかし、ザカリヤは妻エリサベツがもう子どもを産めない年齢に達していることを知っていたので、この預言のことばを信じることができませんでした。それで彼はその時から、子どもが生まれるときまで口がきけなくなってしまいました。それは神のことばを信じなかった不信仰のゆえでした。やがてザカリヤ夫妻に男の子が生まれました。ザカリヤが、天使ガブリエルのことば通りその名を「ヨハネ」と名づけるよう、筆談で指示したとき、ザカリヤは再び口がきけるようになりました。きょうの聖書はそのときにザカリヤが語ったことばで、「ザカリヤの歌」と呼ばれています。
この「ザカリヤの歌」はイエス・キリストがおいでになる新しい時代の夜明けを歌っています。78-79節に「これはわれらの神の深いあわれみによる。そのあわれみにより、日の出がいと高き所からわれらを訪れ、暗黒と死の陰にすわる者たちを照らし、われらの足を平和の道に導く」とあるとおりです。イエスがお生まれになる前のユダヤの国は暗い時代でした。ユダヤの国は、神に対して不従順であったため、バビロン、ペルシャ、シリアといった帝国に支配され、イエスの時代にはローマの支配のもとにありました。ユダヤの王はダビデの子孫でなければならないのに、エドム人のヘロデがユダヤの王でした。ヘロデはローマの元老たちに賄賂を贈ってその地位を買ったのです。ユダヤの人々は外国の支配のもとで苦しみ、あえいでいました。「夜明け前がいちばん暗い」と言われるように、暗くなればなるほど、夜明けが近いのです。信仰者たちは、時代が暗ければ暗くなるほど、新しい時代の夜明けが近いと信じて、救い主と神の国を待ち望みました。そして、それは、今から二千年前の最初のクリスマスに成就したのです。
今日の信仰者たちは、イエス・キリストの二度目のパルーシア（来臨）を待ち望んでいます。イエスの最初の来臨のときが暗い時代であったように、二度目の来臨のときも暗く、困難な時代になります。聖書はキリストの二度目の来臨の前には地震や飢饉、戦争や内乱が起こると教えています。また、道徳が乱れ、神のことばが人の好みにあわせて語られ、見せかけの信仰者が増えるとも警告しています（テモテ第一4:1、テモテ第二3:1、4:4）。戦争や民族紛争が止むことがなく、エイズなどの病気が広がり、地球の環境が痛めつけられ、人々が不安の中に生きているのを見ると、いつイエスがおいでになっても不思議ではない時になっていると思います。世界中の多くの人々が、神を信じていない人も、世の終わりの近いことを感じ、警告を発しています。信仰者は、今の時代をぼんやりと生きていてはいけない、もっと緊張感を持って生きなければならないと思います。
イエスはマタイ16:3で「朝には、『朝焼けでどんよりしているから、きょうは荒れ模様だ。』と言う。そんなによく、空模様の見分け方を知っていながら、なぜ時のしるしを見分けることができないのですか」と言われました。イエスは人々に、時代を見分け、今がどんな時かを知って、それにふさわしく生きるよう、求めておられるのです。マーケティングをしている人はいつも時代を読んでいます。今、ひとびとが何を求めているか、次の時代には何が好まれるかを調べています。日本の製品は性能が良いので、どの国でも歓迎されてきました。もう十数年も前のことですが、日本に行ったとき、最新式の炊飯器を買いました。ご飯がおいしく炊けるというので中国や韓国の人にも人気のある製品でした。私はそれを買った帰りの電車で、買ったばかりの炊飯器を網棚においたまま電車を降りてしまったのです。降りてからからすぐに気がついたのですが、電車はもう出発した後でした。駅の事務所に行って探してもらい、やっととりもどしたという忘れられない、物忘れの経験をしました。今年の７月、お米を入れるとそれがパンになって出てくるという炊飯器というか、パン焼き器ができました。その名も「ゴパン」と言います。注文が殺到し、生産が間に合わないほどで、今までに注文した人は来年３月にならないと手に入らず、新たな注文は来年４月以降になるのだそうです。日本に行ったついでに買ってくるとうわけにはいかないようですね。これは、技術の力だけでなく、人々が米離れをし、パンを好んで食べるようになったという時代を見越したことによる久々のヒット商品だと言えるでしょう。しかし、優れた日本の炊飯器も中東ではあまり売れていないそうです。中東ではご飯の「おこげ」が好まれるので、「おこげ」ができないで完璧に炊ける日本の炊飯器よりも、「おこげ」ができる韓国の製品が好まれているからなのです。日本は技術的には勝っても、マーケティングの面では韓国に負けてしまっているわけです。これはほんの一例ですが、このように人々が時代を読むのに熱心であるのなら、まして信仰者は、もっと、霊的に時代を見分ける目を持たなければならないのではないでしょうか。
聖書は「そのためには、主に喜ばれることが何であるかを見分けなさい。」（エペソ 5:10）「あなたがたが、真にすぐれたものを見分けることができるようになりますように。」（ピリピ 1:10）「すべてのことを見分けて、ほんとうに良いものを堅く守りなさい。」（テサロニケ第一5:21）「しかし、堅い食物はおとなの物であって、経験によって良い物と悪い物とを見分ける感覚を訓練された人たちの物です。」（ヘブル5:14）「私たちは神から出た者です。神を知っている者は、私たちの言うことに耳を傾け、神から出ていない者は、私たちの言うことに耳を貸しません。私たちはこれで真理の霊と偽りの霊とを見分けます。」（ヨハネ第一4:6）などと教えています。どれも、時代を見分けることとやイエスの二度目の来臨に備えることに関連して語られている教えです。クリスマスを前にし、イエスの二度目の来臨を思うとき、聖書の知恵に教えられ、導かれて、時代を見分ける者になりたいと思います。
二、時のしるし
しかし、この時代のことを思うとき、信仰者たちはとかく時代の暗い面だけを見て落胆してしまいがちです。そんなとき、この時代の暗さの向こうにある光を見届けなければなりません。太陽がのぼりはじめるとき、つまり、太陽の上の縁が水平線に到達する時を「日の出」といいますが、じつは「日の出」になってからはじめて空が明るくなるのでなく、日の出の36分前から空はうっすらと明るくなり、「夜明け」となります。ザカリヤの歌に「これはわれらの神の深いあわれみによる。そのあわれみにより、日の出がいと高き所からわれらを訪れ、暗黒と死の陰にすわる者たちを照らし、われらの足を平和の道に導く」とありましたが、「義の太陽」と呼ばれるイエス・キリストが現われを「日の出」と呼ぶなら、今は「夜明け」の時と呼んで良いかもしれません。まだ日は登っていなくても空がうっすらと明るくなるように、キリストの来臨の前には暗闇の中にも光を感じることができるしるしがあるのです。聖書に「闇は光に勝たなかった」とあるのですが、真理の光が闇の力によってかき消されているように見える今の時代にあっても、失望し、くじけてしまわないために、日の出前にも夜明けの光を感じ取ることができるようになりたいと思います。
イエスの最初の来臨のときには、どんな夜明けの光があったでしょうか。まず、神のことばが与えられるというしるしがありました。最後の預言者マラキがユダヤに遣わされてから四百年の間、神のことばは途絶えて、預言も、まぼろしも与えられていませんでした。しかし、その長い沈黙をやぶってザカリヤに神のことばが伝えられました。神のことばが伝えられたのはザカリヤだけではありません。主の母マリヤにも、その夫ヨセフにも、ザカリヤの妻エリサベツにも与えられています。羊飼いたちはベツレヘムの野で喜びの知らせを伝聞きました。シメオンやアンナにも預言のことばが与えられていました。旧約聖書は救い主の来臨を預言してきましたが、いよいよその救い主が来られるとき、神はその預言の成就を知らせるために御使いを遣わして、神のことばをお伝えになったのです。
もうひとつのしるしは聖霊の特別な働きがあったことです。聖霊の特別な働きと、神のことばが語らえることは結びついています。ルカ1:67に「さて、父ザカリヤは、聖霊に満たされて、預言して言った」とあるように、預言すること、神のことばを語ることは聖霊の賜物のひとつであり、聖霊によらなければ出来ないことだからです。天使ガブリエルはマリヤに「聖霊があなたの上に臨み、いと高き方の力があなたをおおいます」（ルカ1:35）と言い、エリサベツはマリヤに会ったとき、聖霊に満たされています（ルカ1:42-45）。シメオンについても聖書は「聖霊が彼の上にとどまっておられた。…聖霊のお告げを受けていた。…聖霊に感じて宮にはいると…」（ルカ2:25-27）と聖霊の特別な働きがあったことが記されています。この後、三十数年してペンテコステの日に聖霊が弟子たちにくだるのですが、聖霊はイエスがお生まれになる前からすでにそのお働きをはじめておられたのです。
同じように、キリストの二度目の来臨の前にも、みことばと聖霊のしるしがあります。神のことばは曲げられ、薄められ、覆い隠されるかもしれません。しかし、黙示録14:6に「また私は、もうひとりの御使いが中天を飛ぶのを見た。彼は、地上に住む人々、すなわち、あらゆる国民、部族、国語、民族に宣べ伝えるために、永遠の福音を携えていた」とあるように、神はもうひとたび、その御使いを送って、この世にまことの神のことばをお伝えになります。
また、イエスの二度目の来臨の前には悪霊の力が強くなり、信仰者でさえそれに惑わされますが、同時に、聖霊も強く働いて、まことの信仰者を守り、導き、あかしのために力づけてくださいます。ペテロはペンテコステの日に預言者ヨエルのことばを引用してこう言いました。「神は言われる。終わりの日に、わたしの霊をすべての人に注ぐ。すると、あなたがたの息子や娘は預言し、青年は幻を見、老人は夢を見る。その日、わたしのしもべにも、はしためにも、わたしの霊を注ぐ。すると、彼らは預言する。また、わたしは、上は天に不思議なわざを示し、下は地にしるしを示す。それは、血と火と立ち上る煙である。主の大いなる輝かしい日が来る前に、太陽はやみとなり、月は血に変わる。しかし、主の名を呼ぶ者は、みな救われる。」（使徒2:17-21）このことばはペンテコステの日に成就したのですが、すべてではありませんでした。「その日、わたしのしもべにも、はしためにも、わたしの霊を注ぐ。すると、彼らは預言する。」という部分はペンテコステの日に成就していますが、「また、わたしは、上は天に不思議なわざを示し、下は地にしるしを示す。それは、血と火と立ち上る煙である。主の大いなる輝かしい日が来る前に、太陽はやみとなり、月は血に変わる。」という部分は、まだ成就していません。それはイエスの二度目の来臨のときに起こるしるしで、それが起こる前に、神はもういちど聖霊を注いでくださるのです。
神のことばと聖霊の働きは、世界中で、夜明けの光のようにして認められるようになってきました。ザカリヤは最初不信仰のために口がきけなくなってしまいましたが、みことばが成就したとき、聖霊に満たされて預言しました。そのように、今まで福音を持たないために語るべきメッセージを語ることができなくなっていた教会が、福音をとりもどし、福音を語るようになりました。臆して口を開いて福音を語らなかったクリスチャンが、聖霊に励まされて神のことばを語るようになってきました。私たちも、神のことばを神のことばとして受け入れ、信じ、それに従い、聖霊によって語る者になりたく思います。「これはわれらの神の深いあわれみによる。そのあわれみにより、日の出がいと高き所からわれらを訪れ、暗黒と死の陰にすわる者たちを照らし、われらの足を平和の道に導く。」神のあわれみの時、おとずれの時がすぐそこに来ています。私たちも夜明けの光を感じとり、やがて来られる「義の太陽」イエス・キリストを語り告げましょう。
（祈り）
父なる神様、あなたのみことばは暗闇を照らす光です。今は暗い時代ですが、だからこそ、暗闇を照らすともしびであるみことばをしっかりと保つことができるようにしてください。聖霊は私たちとともにいてくださいます。今は困難な時代ですが、それに負けることなく、聖霊によって力づけられ、みことばを語る者としてください。時が良くても悪くてもあなたの前に忠実に励む者としてください。主イエスのお名前で祈ります。
12/5/2010